Multi-Sided Platforms(マルチサイド・プラットフォーム)論考

December 27, 2007
最新の戦略コンセプト『マルチサイド・プラットフォーム』についての論考をまとめてみた。

マルチサイド・プラットフォームは僕らが生活しているリアルな経済空間でも、以前から実体として存在していた。たとえば、身近な例としてはコンビニエンス・ストアやスーパーなどが挙げられる。

これらの流通業態が米国から輸入される以前は、物流システムが整っておらず、なおかつ商品にもそれほどの多様性がなかった。ゆえに消費者が直接的に商品に 触れて比較検討し、購買を決定するという慣習はなかった。そこでメーカーと消費者をつなぐキャリアー(配送インフラ)となったのがこれらの業態だった。

今日の情報家電産業に至るまでの流れを決定付けたものの一つに、クレジットカードがある。VISAとマスターカードはともに、電子商取引や決済手段のプ ラットフォームとして世界を変えてしまった。実体経済の中では発生しえない商取引を、信用供与によって取引を円滑化し、「フロート」と呼ばれる代金回収ま での支払いサイトを設け、取引自体の将来価値を高める。

この潮流をさらに加速させたのが、ほかならぬIT技術の革新であった。インターネットの進化によって、コミュニケーションの形成、消費社会の構造が根本的 に変わってしまったのだ。インターネットという「ハブ」を介してアクセスしさえすれば、瞬時に第三者とコミュニケーションを図ることができる。個別の存在 と考えていた顧客は、実はこの新しい大陸でネットワークを形成していたわけだ。

これによって、いともカンタンに「売りたし」「買いたし」という具体的なニーズを持ったコミュニティをマッチングさせることが可能になったのだ。ほとんどのプラットフォームに共通していることは、何らかのやり方で人と人を結びつけるということ。

ここに「リアルではない」経済空間を創出し、複数のサイドが相互依存的に様々な作用を及ぼすことによって、サイド間で利用価値を生み、各サイド間のネット ワーク効果でさらに価値を生み出す、驚くべきビジネスモデルが誕生することになった。L.ワルラスが「愚かな競り人」と呼んだオークショネアーが、いわば このプラットフォームになるわけだ。

そしてプラットフォームが強大な力を得る要因の一つとして、多様性を持ち始めた消費者の趣向が挙げられる。消費者が要求する技術水準が高くなることによっ て、垂直統合型産業が垂直非統合に姿を変え、様々な分野の多数の企業が各レイヤーで高水準のモジュールを供給しなくては、市場の要求に応えられなくなって きているといえるだろう。この産業構造をうまくオーケストレートできるプラットフォームが今、意味を持ち始めているのではないだろうか。

興味深いのは、従来の市場におけるバリューチェーンの場合、価値は左から右へと一方向に移動する。左側には企業が負担するコストがあり、バリューチェーン 全体が生み出す価値とコストの差が利益として右側に残るのに対して、この市場においては左側にも右側にも、上側にも下側にもコストと利益が存在する点にあ る。

このビジネスモデルではユーザーの数が増えると、そのユーザーが属するグループにとって、プラットフォームの価値が向上あるいは下落する現象を「サイド内 ネットワーク効果」が作用する。またネットワークの2面性を特徴とする市場における取引(つまり、ツー・サイド・プラットフォーム)の場合、一方のユー ザーがクリティカル・マス(ものごとが普及・定着するために必要な人数)を超えると、もう片方のユーザー・グループにとってプラットフォームの価値が向上 または下落する「サイド間ネットワーク効果」という現象が作用する。

これらが相乗的に作用することによって、各グループのユーザーが増えるにしたがい、各グループに対してさらに大きな価値をもたらす「ネットワークの外部 性」が働くのである。このネットワークの外部性の効果をうまく設計できているかが、この戦略を志向する上での一つの大きな鍵になる。

そしてもう一つ、重要な概念に「エコ・システム(生態系)」というものがある。サービスあるいは製品自体が非常に補完性の強いものを持っている業界、いわゆるサードパーティーを含む、業界の関与者によって構成されたセグメントということになる。

このプラットフォームを構成するエコ・システムに、どういったアーキテクチャーとルールを提供するかということを考えなくてはいけない。アーキテクチャー とは各ユーザー・グループの取引を促す製品やサービス、インフラの設計概念であり、ルールとは取引の決まりや権利、プライシングを指す。

この中でも、とくに戦略の成否を左右するのがプライシングだ。ビジネス自体の価格構造をどうするか、どのサイドに課金するか、どこから収益を上げるかとい うことなのだが、現在のプラットフォームにおけるプライシングは、特定のグループを選んで優遇し、他のグループを差別する傾向がある。

特定のサイドが価格志向だと仮定すれば、優遇対象として魅力的な価格を提示することでユーザーが雪だるま式に増え、「正のサイド内ネットワーク効果」が働き、「ネットワークの外部性」を誘発することを考えると当然といえる。

またユーザーの中には、たとえば政府や行政機関などの、いわゆる看板ユーザーが存在し、他のサイドのユーザーを引きつけることができると考慮すれば、同様の傾向を持った収益構造となるのだ。

また一般に無料サイトができると、有料サイトは急速に衰退する。競合他社に対して効果的な参入障壁となるスイッチングコストをどう設計するかによっても、優位性の明暗を決する重要なファクターとなる。

プラットフォームの競争的ダイナミズムについて分析してみよう。プラットフォームの特徴の一つは寡占的、あるいは独占的地位をもつことである。プラット フォームは、自然に寡占状態に収斂していく傾向をもっている。この寡占に向かう傾向は、ネットワークの力学に備わっている自然な機能である。

ネットワーク世界では、どのプラットフォームにも共通している価値として、コミュニケーションに加わろうとする人すべてに開かれていなければならず、大勢 の人(と、顧客に付随するプラットフォーム)とつながっているということがある。顧客を惹きつけることができたプラットフォームは、関連サービスや他の業 界に拡大していくという力を持っているのである。これが昨今の加速度的なデジタル・コンバージェンス(収斂)という潮流の駆動力となっている。

たとえば昨今、盛り上がりを見せるモバイル・サイトだが、フルブラウザ対応機種やスマートフォンの性能を見ていると、将来的にはPCサイトに集約されるのではないかと僕は見ている。

つまりは、これまで全く対象領域と考えられなかった隣接市場にビジネス・チャンスを見出すことができるということだ。この特性を踏襲したうえでプラット フォームを設計するには、先行して産業融合を先取りすることが効果的であるのだが、反対に他業界の動きにも目を光らせる必要性が出てくる。

とくにニッチを開拓することで差別化を図り、大きなプラットフォームの陰で専門化を進めた挑戦者たちが現れる脅威が常に存在するのである。実際の脅威は、 隣接市場のプラットフォーム・プロバイダーが製品やサービスをバンドルして提供し始めたときに訪れる。さらに脅威は必ずしも外部環境にのみ存在するのでは なく、同じエコ・システム内部にも潜んでいる可能性がある。顧客は同時に競合である場合もよくあるからだ。

このような競争環境にある中で、ただ競合企業に打ち勝つためのものではなく、顧客にとっての新たな価値創造を追求することはマーケティングの大前提として あるのだが、寡占状態にあるマルチサイド・プラットフォームにおいてはとくに留意すべき点である。顧客にこれまでは不可能だったことを可能とする仕組みが 何かなくてはならない。

常に顧客のニーズに注意を払い、そうしたニーズに応えられるような、自社のもつ真の優位性とは何かを詳細に分析すること、どういった価値を提案するのかを 明確に定義づけなければならず、キラー・プラットフォームとなるには、「キラー・コンテンツ」をもっていなければならないのである。

では、この戦略コンセプトをどう適用させればよいのかというと、プラットフォームには特定の類型が存在しないため、自社の顧客ニーズと自社のもっている能力との両方を、注意深く評価することだ。

■ 人々がコミュニケーションや輸送をうまくやれるようにするには、どのような重要な特性を必要としているのかを見つける
■ 最も競争力があり、最先端のオンライン・サービスが確実に導入されるよう優良参加企業が集結するネットワークをつくる
■ 他の会社が提供してくれるいくつかのプラットフォームの中から、自社の固有システムに組み込まれたプラットフォームと最も相性のよい組み合わせを見つける
■ 自社のビジネス・プロセスを見直して、そのなかに他社がつくったプラットフォームに適応させ組み込める部分がないかを探す

以上のような視点が必要だと、大前氏は指摘している。

事業執行に際しては最初に参入して、競合がいないうちに顧客のクリティカル・マスを形成することがキー・ファクターとなる。もし最初に参入できなかったな ら、自分のプラットフォームを新たに創出するよりも、すでに存在するプラットフォームのエコ・システムに与する方が賢明な判断となるだろう。

いずれにせよ、革命的といえる技術の進歩によって変容しつつある市場の見方を変え、再定義することがこのコンセプトにおいて有意であり、ネットワークによって価値を最大化することが狙いである。

マルチサイド・プラットフォームの最大の優位性は、高いLTV(顧客の生涯価値)が得られることにある。顧客との信頼関係を築くことができれば、スイッチング・コストが障壁となり、末永いリレーションを実現することができる。

このコンセプトは従来の枠組みを超え、いわば3次元的な思考で構想することで、脅威的なブレイク・スルーを生み出す可能性が秘められている。


松田 真実@次世代マーケターの理論武装

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Multi-Sided Platforms(マルチサイド・プラットフォーム)概論

December 14, 2007
これからのビジネスシーンを見据えたビジネスモデルで、見過ごすことのできない潮流がある。本稿では、次世代戦略コンセプトとして注目されているアメリカの最新理論、『マルチサイド(多面的)プラットフォーム』について取り上げてみる。

今夏、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)誌に取り上げられたこともあり、ようやく日本でも認知されつつある「プラットフォーム論」。この理論を主として提唱しているのがAndrei Hagiu(アンドレイ ハジウ)氏という人物。その略歴は以下のとおりだ。

仏国立理工科大学(Ecole Polytechnique)にて経済学士、修士を取得後、米プリンストン大学にて経済学博士取得。仏経済金融産業省のアジア担当財務部、 National Economics Research Associatesコンサルタントを経て、RIETI(独立行政法人経済産業研究所)研究員として2004年から2005年9月まで日本に滞在。 現在、米ハーバード・ビジネス・スクール準教授で教鞭をとる傍ら、米戦略コンサルティング会社マーケット・プラットフォーム・ダイナミクスのプリンシパル を勤める。

現役ハーバード・ビジネス・スクールの準教授で企業戦略の若手ホープである。26歳で最年少となる同校の準教授になり、その著書『Invisible Engines』は経済書として賞を受賞し、高い評価を得ている。一部では"M・E・ポーターの再来"とも目されているほどの人物だ。

実はこのHagiu氏、もともと僕が在籍していた機関のグループ会社で、アドバイザーとして経済学や経営戦略についての最新理論にもとづく助言を受け、協 力関係を築いていた関係上、いちはやく「プラットフォーム論」についての情報を取得し、研究に取り組んでいたものだった。

では、この『マルチサイド・プラットフォーム』とは一体何なのか。端的に表すなら、異なるユーザーによって構成される市場(ネットワーク)が複数あり、こ れらの市場は相互補完関係にあり、かつ結びついていることでネットワーク外部性が生じ、ひいては収穫逓増の法則が働くビジネスモデルのことだ。この構造 は、とくに産業の融合、デジタル・コンバージェンス(収斂)が進む情報家電産業の分野において顕著だとしている。

Hagiu氏自身によれば、マルチサイド・プラットフォームとは「2つ以上の複数のサイド(市場)を持っているプラットフォーム」と定義している。このよ うなプラットフォームが統制する市場においては、異なったタイプの消費者が存在し、その市場はお互いの存在なしでは成立せず、その市場において双方が直接 または間接的に取引をするという。

マルチサイド・プラットフォームを規定する特徴として以下の3つを挙げている。
1. 2つ以上の異なる種類の顧客が、2つ以上のサイドに存在していること
2. それぞれが互いの存在を必要としていること
3. プラットフォームはその顧客同士を繋げることで付加価値を生むということ

『マルチサイド・プラットフォーム』の好例として、よく"iモード"や"クレジットカード"、"プレイステーション"、"i pod"が例に挙げられている。とくにHagiu氏のお気に入りの事例として語られる"iモード"の場合はプラットフォームを提供することで、携帯電話の 利用者、携帯電話メーカー、コンテンツ・プロバイダーが結びつき、その結果、ネットワーク外部性が働く。サービス・製品を供給する側のニーズと、それらを 消費するユーザー側のニーズを同時に満たすことでプラットフォームは、それ自体の経済価値を増すことになる。

つまり、大前研一氏が著書『新・資本論』 で規定した「サイバー経済の空間」において、"見えない経済大陸"から買い手に情報を提供することで視覚化し、売り手にサイバー空間上に"場"を提供して 両者を結びつける市場創造者、インフォミディアリ(情報仲介)をモデリングしたのがマルチサイド・プラットフォームなのである。驚くことに、大前氏は 2001年刊行の『新・資本論』の中で「富はプラットフォームから生まれる」として、このビジネスモデルの有用性を予見し、精緻に分析している。 Hagiu氏をはじめとするハーバード・ビジネス・スクール教授陣によるプラットフォーム論の発表より、およそ4年も早くである。

このように独立した企業が連なる新たなバリューチェーンを構築・運営し、全体の価値を高めるビジネスモデルを、ボストン・コンサルティング・グループが提唱する『デコンストラクション(バリューチェーン、つまり価値連鎖の再構築)』では、オーケストレーターと呼ぶ。

マルチサイド・プラットフォームは、先日詳述した佐藤義典氏が定義するところの『戦場型』を発展させたコンセプトだ。利益率の高い業界や競合が参入しにくい業界などの「戦場の選び方」が重要だという考え方で、M・E・ポーターに代表される「儲かる戦場(市場)にいれば儲かる」というのがその本質である。

佐藤氏の提唱する戦略ツール「戦略BASiCS」において、競争優位の決定要因となる「戦場」、「独自資源」、「強み・差別化」、「顧客」、「売り文句」 の5要素の整合性を取る重要性は前回述べた。当然のことながら「商品だけは、他社とは差別化された素晴らしいものだ」、「売れる"ターゲット顧客"が明確 になっているが、自社には効果的な"売り文句"を表現するノウハウがない」といったように1要素が特化しているだけではモノは売れない。すべての要素が複 合的に絡み合うからこそ競合優位性が発揮される。

これら5要素の整合性を取ることは重要なのだが、決定要因として5要素の占有率が一律であることは少ない。顧客の中で差別化要因として響くツボも違えば、 その要因が占める幅も違うのだ。だからこそ「味はイマイチだけど立地がいいから、どうしても行ってしまう」レストランなどが往々にしてあるわけだ。ただ し、この場合だと環境変化という流れに依存してしまい、場合によって状況が一変することがあるので「長期的な競合優位」は考えにくい。

上記の例のように、長期的な視点を省けば「戦場」という要素は、決定要因としての占有率がきわめて高いことがわかる。とくにドッグイヤーと揶揄されるほど に時流が早いweb世界では、収穫逓増の法則が働くといわれる。圧倒的なシェアを築き上げてしまえば先行者利益が成立し、絶対優位は揺るがないのだ。

Hagiu氏のプラットフォーム論も、デジタル技術とインターネット・プロトコル(IP)という技術への共通化によって融合した情報家電産業を前提とし、 オーケストレーターとして「戦場」を創造するということから「戦場型」の経営戦略論に帰属するものの(強いプラットフォームもまた、結果として『戦略 BASiCS』の全体最適が図られているのだが)、コンテンツホルダーなどの異なるユーザーに「戦場」を提供することで関与者としてプラットフォームに取 り込んでいく、「ジョイントベンチャー(戦略的提携)」という戦術概念を融合させた、まったく新しいコンセプトなのである。

消費者の多様化と高度化が進んだ現代の消費社会の中で、デジタル・コンバージェンスによってリアルの既存産業の境界は徐々に消滅している。産業組織論的な 見地からも、消費社会におけるコミュニティの形成の在り方・生態系が徐々に変異している。この新たな価値観創造の時代において、すでに飽和した市場におい ても新たなビジネスチャンスを見出せる、きわめて有効な戦略ではないかと僕は見ている。

この理論において重要なのは、複数のサイドが相互依存的に様々な作用をすることによって、サイド間で利用価値を生み出し、各サイド間のネットワーク効果でさらに価値を生み出すということであり、これをネットワーク外部性と言う。

以上がマルチサイド・プラットフォームについての概論になるが、次回はさらにフォーカスしてその可能性について詳述していきたい。次回まで我慢できないという方は、大前研一氏の 『新・資本論―見えない経済大陸へ挑む』をご参照いただければと思う。今のところ、『マルチサイド・プラットフォーム』について邦訳された参考文献はきわめて少ない。その中でも同書は先見性に富み、実に深い示唆を教示してくれている良書だ。



松田 真実@次世代マーケターの理論武装

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