Multi-Sided Platforms(マルチサイド・プラットフォーム)概論

December 14, 2007
これからのビジネスシーンを見据えたビジネスモデルで、見過ごすことのできない潮流がある。本稿では、次世代戦略コンセプトとして注目されているアメリカの最新理論、『マルチサイド(多面的)プラットフォーム』について取り上げてみる。

今夏、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)誌に取り上げられたこともあり、ようやく日本でも認知されつつある「プラットフォーム論」。この理論を主として提唱しているのがAndrei Hagiu(アンドレイ ハジウ)氏という人物。その略歴は以下のとおりだ。

仏国立理工科大学(Ecole Polytechnique)にて経済学士、修士を取得後、米プリンストン大学にて経済学博士取得。仏経済金融産業省のアジア担当財務部、 National Economics Research Associatesコンサルタントを経て、RIETI(独立行政法人経済産業研究所)研究員として2004年から2005年9月まで日本に滞在。 現在、米ハーバード・ビジネス・スクール準教授で教鞭をとる傍ら、米戦略コンサルティング会社マーケット・プラットフォーム・ダイナミクスのプリンシパル を勤める。

現役ハーバード・ビジネス・スクールの準教授で企業戦略の若手ホープである。26歳で最年少となる同校の準教授になり、その著書『Invisible Engines』は経済書として賞を受賞し、高い評価を得ている。一部では"M・E・ポーターの再来"とも目されているほどの人物だ。

実はこのHagiu氏、もともと僕が在籍していた機関のグループ会社で、アドバイザーとして経済学や経営戦略についての最新理論にもとづく助言を受け、協 力関係を築いていた関係上、いちはやく「プラットフォーム論」についての情報を取得し、研究に取り組んでいたものだった。

では、この『マルチサイド・プラットフォーム』とは一体何なのか。端的に表すなら、異なるユーザーによって構成される市場(ネットワーク)が複数あり、こ れらの市場は相互補完関係にあり、かつ結びついていることでネットワーク外部性が生じ、ひいては収穫逓増の法則が働くビジネスモデルのことだ。この構造 は、とくに産業の融合、デジタル・コンバージェンス(収斂)が進む情報家電産業の分野において顕著だとしている。

Hagiu氏自身によれば、マルチサイド・プラットフォームとは「2つ以上の複数のサイド(市場)を持っているプラットフォーム」と定義している。このよ うなプラットフォームが統制する市場においては、異なったタイプの消費者が存在し、その市場はお互いの存在なしでは成立せず、その市場において双方が直接 または間接的に取引をするという。

マルチサイド・プラットフォームを規定する特徴として以下の3つを挙げている。
1. 2つ以上の異なる種類の顧客が、2つ以上のサイドに存在していること
2. それぞれが互いの存在を必要としていること
3. プラットフォームはその顧客同士を繋げることで付加価値を生むということ

『マルチサイド・プラットフォーム』の好例として、よく"iモード"や"クレジットカード"、"プレイステーション"、"i pod"が例に挙げられている。とくにHagiu氏のお気に入りの事例として語られる"iモード"の場合はプラットフォームを提供することで、携帯電話の 利用者、携帯電話メーカー、コンテンツ・プロバイダーが結びつき、その結果、ネットワーク外部性が働く。サービス・製品を供給する側のニーズと、それらを 消費するユーザー側のニーズを同時に満たすことでプラットフォームは、それ自体の経済価値を増すことになる。

つまり、大前研一氏が著書『新・資本論』 で規定した「サイバー経済の空間」において、"見えない経済大陸"から買い手に情報を提供することで視覚化し、売り手にサイバー空間上に"場"を提供して 両者を結びつける市場創造者、インフォミディアリ(情報仲介)をモデリングしたのがマルチサイド・プラットフォームなのである。驚くことに、大前氏は 2001年刊行の『新・資本論』の中で「富はプラットフォームから生まれる」として、このビジネスモデルの有用性を予見し、精緻に分析している。 Hagiu氏をはじめとするハーバード・ビジネス・スクール教授陣によるプラットフォーム論の発表より、およそ4年も早くである。

このように独立した企業が連なる新たなバリューチェーンを構築・運営し、全体の価値を高めるビジネスモデルを、ボストン・コンサルティング・グループが提唱する『デコンストラクション(バリューチェーン、つまり価値連鎖の再構築)』では、オーケストレーターと呼ぶ。

マルチサイド・プラットフォームは、先日詳述した佐藤義典氏が定義するところの『戦場型』を発展させたコンセプトだ。利益率の高い業界や競合が参入しにくい業界などの「戦場の選び方」が重要だという考え方で、M・E・ポーターに代表される「儲かる戦場(市場)にいれば儲かる」というのがその本質である。

佐藤氏の提唱する戦略ツール「戦略BASiCS」において、競争優位の決定要因となる「戦場」、「独自資源」、「強み・差別化」、「顧客」、「売り文句」 の5要素の整合性を取る重要性は前回述べた。当然のことながら「商品だけは、他社とは差別化された素晴らしいものだ」、「売れる"ターゲット顧客"が明確 になっているが、自社には効果的な"売り文句"を表現するノウハウがない」といったように1要素が特化しているだけではモノは売れない。すべての要素が複 合的に絡み合うからこそ競合優位性が発揮される。

これら5要素の整合性を取ることは重要なのだが、決定要因として5要素の占有率が一律であることは少ない。顧客の中で差別化要因として響くツボも違えば、 その要因が占める幅も違うのだ。だからこそ「味はイマイチだけど立地がいいから、どうしても行ってしまう」レストランなどが往々にしてあるわけだ。ただ し、この場合だと環境変化という流れに依存してしまい、場合によって状況が一変することがあるので「長期的な競合優位」は考えにくい。

上記の例のように、長期的な視点を省けば「戦場」という要素は、決定要因としての占有率がきわめて高いことがわかる。とくにドッグイヤーと揶揄されるほど に時流が早いweb世界では、収穫逓増の法則が働くといわれる。圧倒的なシェアを築き上げてしまえば先行者利益が成立し、絶対優位は揺るがないのだ。

Hagiu氏のプラットフォーム論も、デジタル技術とインターネット・プロトコル(IP)という技術への共通化によって融合した情報家電産業を前提とし、 オーケストレーターとして「戦場」を創造するということから「戦場型」の経営戦略論に帰属するものの(強いプラットフォームもまた、結果として『戦略 BASiCS』の全体最適が図られているのだが)、コンテンツホルダーなどの異なるユーザーに「戦場」を提供することで関与者としてプラットフォームに取 り込んでいく、「ジョイントベンチャー(戦略的提携)」という戦術概念を融合させた、まったく新しいコンセプトなのである。

消費者の多様化と高度化が進んだ現代の消費社会の中で、デジタル・コンバージェンスによってリアルの既存産業の境界は徐々に消滅している。産業組織論的な 見地からも、消費社会におけるコミュニティの形成の在り方・生態系が徐々に変異している。この新たな価値観創造の時代において、すでに飽和した市場におい ても新たなビジネスチャンスを見出せる、きわめて有効な戦略ではないかと僕は見ている。

この理論において重要なのは、複数のサイドが相互依存的に様々な作用をすることによって、サイド間で利用価値を生み出し、各サイド間のネットワーク効果でさらに価値を生み出すということであり、これをネットワーク外部性と言う。

以上がマルチサイド・プラットフォームについての概論になるが、次回はさらにフォーカスしてその可能性について詳述していきたい。次回まで我慢できないという方は、大前研一氏の 『新・資本論―見えない経済大陸へ挑む』をご参照いただければと思う。今のところ、『マルチサイド・プラットフォーム』について邦訳された参考文献はきわめて少ない。その中でも同書は先見性に富み、実に深い示唆を教示してくれている良書だ。



松田 真実@次世代マーケターの理論武装

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