

ジョブズの功績
October 12, 2011
先週、世界を震撼させた話題を共有したいと思います。
以下、日経電子版からの抜粋。
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米アップル会長、スティーブ・ジョブズ死が死去
米 アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ会長が5日、死去した。56歳
だった。1976年、個人向けのコンピューターを手掛けるアップルコンピュータ
(現アップル)を創業。携帯プレーヤー「iPod」や高機能携帯電話「iPh
one(アイフォーン)」などをヒットさせ、同社を時価総額で世界最大の企業
に押し上げるとともに、カリスマ経営者として業界の変革を主導し続けた。
ジョブズ氏の影響力は情報家電の分野にとどまらず、通信、音楽、映像、メ
ディアなど幅広い領域に及ぶ。ネットの音楽配信サービスやスマートフォン、タ
ブレット端末などを次々と普及させ、デジタル技術を世界の人々の暮らしに深く
組み込んだ。
洗練されたデザインの「マッキントッシュ(マック)」ブランドでパソコンを
世に送り出し、革新的な企業イメージを確立した。ジョブズ氏が経営に復帰した
後に手掛けたiPodやiPadなどは使いやすさと美しさを重視し、急成長の
起爆剤になった。
一方、製造工程の大半を外部に頼り自らはほとんど工場を持たない経営を主
導。ビジネスモデルの破壊と創造の典型例とされ、半導体や液晶など日本メー
カーも含めて関連企業に巨大な需要を生み出した。
今年8月には設備産業の代表格でもある石油大手エクソンモービルを時価総額
で抜いて世界一となり、世界の産業の主役交代を印象づけた。
ジョブズ氏はカリフォルニア州で生まれ育ち、76年、友人のスティーブ・ウォ
ズニアック氏らとアップルコンピュータを創業。パソコンの時代を切り開いた。
新規株式公開で巨額の資産を得て20代の億万長者として注目を集めたが、競争
激化で業績が悪化すると社外から招いたジョン・スカリー社長によって、創業者
にもかかわらず85年にアップルを事実上追放された。
ジョブズ氏はその後、ベンチャー企業を起業。86年にはルーカスフィルムのコ
ンピューター関連部門(現ピクサー)を買収し、最高経営責任者 (CEO)に
就いた。96年に業績不振に陥ったアップルに復帰。97年に暫定CEOとなり、ラ
イバルのマイクロソフトと資本・業務提携に踏み切った。 2000年には正式にC
EOに就任。報酬1ドルなどで話題を集めた半面、個性の強さや意思決定を集中
させる手法には独善的などの評価もつきまとった。
04年に膵臓(すいぞう)がんの手術を受け、09年にも休養して肝臓移植を受け
たことを明らかにしていた。今年8月24日、ジョブズ氏は アップルのCEOを
辞任。後任にティム・クック最高執行責任者(COO、当時)が昇格した。ここ
数年はジョブズ氏の健康問題がアップル最大の経営課題とも 指摘されていた。
アップル取締役会は5日、「スティーブ・ジョブズ氏の輝ける才能、情熱、エ
ネルギーは数え切れないイノベーションの源となり、我々の生活を 豊かにし、
改善した」とのコメントを発表した。アップルのウェブサイトも「アップルは優
れた先見の明をもった創造的な天才を失った」とするコメントを掲載 した。
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驚いたのは、このニュース自体ではなく、このニュースに対する世論への余波
でした。
■Steve Jobs 氏公認の伝記、予約急増
http://japan.internet.com/busnews/20111007/9.html
■ジョブズ氏愛用、黒いタートル販売急増 品切れ相次ぐ
http://s.nikkei.com/quj3Tl
■【映像特集】時代の先駆者、ジョブズ氏の遺産
http://s.nikkei.com/nkXadS
■スティーブ・ジョブズ追悼楽曲
http://blogs.itmedia.co.jp/closebox/2011/10/post-577a.html?ref=rssall
そして僕も、こんなの作ってしまいました。
■スティーブ・ジョブズ追悼iPhone4/4S用オリジナル・ケース
http://bit.ly/mWLN31
香港の現役大学生がデザインした「追悼ロゴ」が世界中で話題を呼んでいます。
同社のロゴはリンゴの右上にかじった跡のようなくぼみがあるんですが、そこに
スティーブ・ジョブズ氏の横顔のシルエットをはめ込まれています。
それにしても、もうPodcastのKeynotesで、あのジョブズのプレゼンを観ること
ができないのかと思うと残念でしかたありません。プレゼンテーションの仕方、
英語の話し方がとても参考になるんですよね。
僕は生粋のアップル信者です。iMac、Apple TVを除く、MacBook、MacBook
Pro、MacBook Air、iPad2、iPhoneとほぼフルラインナップが揃っています。
iPhoneは前回お話ししたとおり、3Gのフォルムの美しさに魅了されて、どうし
ても4/4Sに変える気にはなりませんでしたが、手持ちの32GBの容量いっぱい
いっぱい使っていて、どうしても64GBでないとうまく駆動しませんので、しぶ
しぶ4Sを予約しにいきました。
ソフトバンクショップに予約受付開始直後の16時過ぎにいったのですが、予約
だけで1時間半待ち。根強いiPhoneファンの多さに圧倒されてしまいました。巷
ではiPhone4Sが「ジョブス最後の遺作」として呼び声高いですが、過去の
Keynotesのジョブスのテンションから見ても、どうしてもiPhone4/4Sは次世代
機への「つなぎ」で渋々リリースした感が否めません。おそらく、ジョブズにし
てみても、もっと洗練された工業デザインを画策していたのでしょう。
さて、ここからスティーブ・ジョブズの功績について考えていきましょう。とは
いっても、この手の記事が現在、無数にネット上に溢れているので、単なるジョ
ブス礼賛というワケではなくて、あくまでその経営者像とマーケティング手法に
ついて見解を述べていくことにします。
スティーブ・ジョブズは、アップル製品をこよなく愛するアップル信者なるマニ
アを魅了し続けることで現在のブランド価値を築いてきました。その源泉は洗練
された近未来的な工業デザインと、未来を見据えた製品思想にあります。
昨今の技術革新により、デジタル・デバイスは多機能・万能型な製品が数多く生
み出されるようになりました。しかし、アップルにおいての「最良」とは、必ず
しも多機能・万能を意味しないという哲学が現在のアップル社の成功に大きく寄
与しています。「使いこなせない多機能よりも、使い倒せる厳選機能」を実現し
た「ユーザーインターフェイス」自体が彼らの売り物、提供価値なのです。まさ
に「ドリルを売るには穴を売れ」です。
このムダを徹底的に排し、究極といえるまでに削ぎ落とされたシンプルなイン
ターフェイスは、どの製品カテゴリでも共通しています。たとえば、MacBook
をはじめとしたPC端末にしても、堅牢なファイアウォールを特徴の一つとし
て、買ったその日から面倒な設定をしなくても、すぐに使える様式美を備えてい
るワケです。無駄なボタンやソフトは一切入っていません。
これは、スティーブ・ジョブズが製品デザインから基板の設計、OSやソフト
ウェアの使い勝手、マーケティング手法、テレビCMの編集、広告媒体の選定ま
で、アップル社のありとあらゆる業務に目を光らせていたことの証左です。新型
機の開発の際にマザーボードの配列の仕方が美しくないとして、市場投入を否と
したという逸話は非常に有名な話です。
マーケティングとは顧客の声をいかに聞くことだということは以前にも触れてき
ました。コトラーのマーケティングの大原則は顧客の「ニーズ」に焦点を当てる
ことなのですが、この「ニーズ」の対立項として「シーズ」という考え方が存在
します。シーズというのは、製品開発者の「作りたい」という欲求に焦点を当
て、プロダクトアウトすることを指します。
一般的にこのシーズ志向はマーケティング的に否とされてきた考え方なのです
が、僕はこの「シーズ」という考え方がマーケティング上、非常に有効であると
考えています。なぜなら、経営者や従業員、製品開発者といった自社の人間こそ
が、「自社製品の第一の顧客」であるべきだからです。自社の製品を日常的に
使っているからこそ出てくる発想こそが、真の「ニーズ」に立脚した商品開発手
法であると言えます。
しかしながら、この「シーズ」志向にも罠が存在します。それは自社製品を日常
的に扱っているからこそ出てくる近視眼的な思い込みによって、第一の顧客であ
るはずの自社にバイアスがかかってしまうということ。この製品はこうあるべき
だという開発者の視点が、真の「ニーズ」から踏み外してしまうことがあるので
す。そのためにも、社会のトレンドに敏感に反応できる感受性を持ち合わせてお
くことが重要で、この感受性が不在なために、どんな「ニーズ」にも合致しない
的はずれな製品が生み出されることが往々にしてあるのです。
その意味でスティーブ・ジョブズが類稀な感受性と、これからのデジタル・ライ
フはこうあるべきだという強い先見的なビジョンを備えていたことで、真の(正
の)シーズが発揮されていたということがいえると思います。ある意味では、
シーズ志向は属人的な能力に依存するということなのですが、有能なコンダク
ターが存在することでこれらのバランスとコンセンサスが非常に取れていたこと
が、現在のアップルの成功につながっていたのではないでしょうか。事実、アッ
プルは、一時期スティーブ・ジョブズを解雇したときに、この「負のシーズ」思
考に陥っています。
さて、2つ目の論点としてスティーブ・ジョブズの特筆すべき経営手腕がありま
す。これは、僕が「インプルーブ・マーケティング」と呼んで提唱している理論
なのですが、製品に「物語性」という情報を付加することで、消費者を自社が発
信する情報のビオトープに引き入れることができるというものです。
単純な例で言うと、「新鮮な牛乳」というよりは「●●高原の●●さんが20年
の歳月をかけて到達した人類未踏の新鮮な牛乳」という情報を付加した方が売れ
るということです。これは単純に製品開発秘話や製品コンセプトを消費者に伝え
ることでも可能になるのですが、自社が創り出す未来の壮大なビジョンをストー
リーとして届けることで、その物語消費の中に消費者を引き入れることができま
す。この例で言うと、かつて大ヒットした「ビックリマン」現象を例にとること
ができます。
商品の背後に壮大なスケールのストーリーが進行しており、そのストーリーの副
産物としてビックリマン・シールという商品が位置付けられています。消費者は
ビックリマン・シールを買うことで、ロッテが展開したビックリマン・ワールド
に参加することになるのです。コレが僕が提唱している「インプルーブ・マーケ
ティング」です。
この意味をアップル社に変換すると、スティーブ・ジョブズはプレゼンの際に必
ず「アップル・ライフ」という、彼が描く壮大な未来の中に引き込まれます。そ
して製品単体でも、記者発表の前まで徹底した情報操作で新製品の概要を秘匿
し、神秘性を醸しだしています。これはアップル社内においてもプロジェクト間
の機密がしっかりと保たれ、製品が発表されるまで自社内で何が行われているの
か知らないスタッフも大勢いるのです。iPhoneの開発でも、筐体デザインの秘
密を守るために、部署によっては、実際にリリースされたものとは異なるダミー
デザインのプロトタイプを渡されて作業が進められたと伝えられています。こう
することで、各地でリーク情報が出まわり、憶測が憶測を呼びスティーブ・ジョ
ブズの描く世界観の中へと引きずり込まれることになったワケです。
最後はCI(コーポレート・アイデンティティ)とPR戦略の妙が挙げられるで
しょう。最近では、さまざまな製品分野で「Made in China」「Made in
Taiwan」「Made in Malaysia」といったように生産国表示をアジア諸国とす
るものが目立って増えてきました。アップルも例外ではなく製品外装には
「Assembled in China」や「Assembled in Malaysia」の文字を見つけられま
す。しかし同社は、その前に必ず次の一文を掲げた点で他社とは一線を画してい
ます。
「Designed by Apple in California」
つまり、どこの国で製造されようとも、あるいは生産委託をしていても、この製
品はカリフォルニア州のアップルでデザインされたものである、という宣言なワ
ケです。米国製品というよりは全世界製品として明示していて、そのコア・コン
ピタンスがどこにあるのかをユーザーに対して示していることが、安心感や信頼
感を育んでいるということが言えるでしょう。
以上、ここまでマーケティング的な視点からスティーブ・ジョブズの功績を眺め
てきました。今回の新製品発表はiPhone5を期待していたファンの思惑とは裏腹
に下馬評どおり、iPhone4のマイナーチェンジとなる4Sのリリースとなり、個
人的にも少し肩透かしをくらった気分です。スティーブ・ジョブズ不在のアップ
ルが今後、どのような「アップル・ライフ」を描いていくのかは未知数ですが、
ジョブスのマインドをきちんと継承して製品開発に取り組んでほしいものです
ね。
以下、日経電子版からの抜粋。
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米アップル会長、スティーブ・ジョブズ死が死去
米 アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ会長が5日、死去した。56歳
だった。1976年、個人向けのコンピューターを手掛けるアップルコンピュータ
(現アップル)を創業。携帯プレーヤー「iPod」や高機能携帯電話「iPh
one(アイフォーン)」などをヒットさせ、同社を時価総額で世界最大の企業
に押し上げるとともに、カリスマ経営者として業界の変革を主導し続けた。
ジョブズ氏の影響力は情報家電の分野にとどまらず、通信、音楽、映像、メ
ディアなど幅広い領域に及ぶ。ネットの音楽配信サービスやスマートフォン、タ
ブレット端末などを次々と普及させ、デジタル技術を世界の人々の暮らしに深く
組み込んだ。
洗練されたデザインの「マッキントッシュ(マック)」ブランドでパソコンを
世に送り出し、革新的な企業イメージを確立した。ジョブズ氏が経営に復帰した
後に手掛けたiPodやiPadなどは使いやすさと美しさを重視し、急成長の
起爆剤になった。
一方、製造工程の大半を外部に頼り自らはほとんど工場を持たない経営を主
導。ビジネスモデルの破壊と創造の典型例とされ、半導体や液晶など日本メー
カーも含めて関連企業に巨大な需要を生み出した。
今年8月には設備産業の代表格でもある石油大手エクソンモービルを時価総額
で抜いて世界一となり、世界の産業の主役交代を印象づけた。
ジョブズ氏はカリフォルニア州で生まれ育ち、76年、友人のスティーブ・ウォ
ズニアック氏らとアップルコンピュータを創業。パソコンの時代を切り開いた。
新規株式公開で巨額の資産を得て20代の億万長者として注目を集めたが、競争
激化で業績が悪化すると社外から招いたジョン・スカリー社長によって、創業者
にもかかわらず85年にアップルを事実上追放された。
ジョブズ氏はその後、ベンチャー企業を起業。86年にはルーカスフィルムのコ
ンピューター関連部門(現ピクサー)を買収し、最高経営責任者 (CEO)に
就いた。96年に業績不振に陥ったアップルに復帰。97年に暫定CEOとなり、ラ
イバルのマイクロソフトと資本・業務提携に踏み切った。 2000年には正式にC
EOに就任。報酬1ドルなどで話題を集めた半面、個性の強さや意思決定を集中
させる手法には独善的などの評価もつきまとった。
04年に膵臓(すいぞう)がんの手術を受け、09年にも休養して肝臓移植を受け
たことを明らかにしていた。今年8月24日、ジョブズ氏は アップルのCEOを
辞任。後任にティム・クック最高執行責任者(COO、当時)が昇格した。ここ
数年はジョブズ氏の健康問題がアップル最大の経営課題とも 指摘されていた。
アップル取締役会は5日、「スティーブ・ジョブズ氏の輝ける才能、情熱、エ
ネルギーは数え切れないイノベーションの源となり、我々の生活を 豊かにし、
改善した」とのコメントを発表した。アップルのウェブサイトも「アップルは優
れた先見の明をもった創造的な天才を失った」とするコメントを掲載 した。
--------------------------------------------------------------
驚いたのは、このニュース自体ではなく、このニュースに対する世論への余波
でした。
■Steve Jobs 氏公認の伝記、予約急増
http://japan.internet.com/busnews/20111007/9.html
■ジョブズ氏愛用、黒いタートル販売急増 品切れ相次ぐ
http://s.nikkei.com/quj3Tl
■【映像特集】時代の先駆者、ジョブズ氏の遺産
http://s.nikkei.com/nkXadS
■スティーブ・ジョブズ追悼楽曲
http://blogs.itmedia.co.jp/closebox/2011/10/post-577a.html?ref=rssall
そして僕も、こんなの作ってしまいました。
■スティーブ・ジョブズ追悼iPhone4/4S用オリジナル・ケース
http://bit.ly/mWLN31
香港の現役大学生がデザインした「追悼ロゴ」が世界中で話題を呼んでいます。
同社のロゴはリンゴの右上にかじった跡のようなくぼみがあるんですが、そこに
スティーブ・ジョブズ氏の横顔のシルエットをはめ込まれています。
それにしても、もうPodcastのKeynotesで、あのジョブズのプレゼンを観ること
ができないのかと思うと残念でしかたありません。プレゼンテーションの仕方、
英語の話し方がとても参考になるんですよね。
僕は生粋のアップル信者です。iMac、Apple TVを除く、MacBook、MacBook
Pro、MacBook Air、iPad2、iPhoneとほぼフルラインナップが揃っています。
iPhoneは前回お話ししたとおり、3Gのフォルムの美しさに魅了されて、どうし
ても4/4Sに変える気にはなりませんでしたが、手持ちの32GBの容量いっぱい
いっぱい使っていて、どうしても64GBでないとうまく駆動しませんので、しぶ
しぶ4Sを予約しにいきました。
ソフトバンクショップに予約受付開始直後の16時過ぎにいったのですが、予約
だけで1時間半待ち。根強いiPhoneファンの多さに圧倒されてしまいました。巷
ではiPhone4Sが「ジョブス最後の遺作」として呼び声高いですが、過去の
Keynotesのジョブスのテンションから見ても、どうしてもiPhone4/4Sは次世代
機への「つなぎ」で渋々リリースした感が否めません。おそらく、ジョブズにし
てみても、もっと洗練された工業デザインを画策していたのでしょう。
さて、ここからスティーブ・ジョブズの功績について考えていきましょう。とは
いっても、この手の記事が現在、無数にネット上に溢れているので、単なるジョ
ブス礼賛というワケではなくて、あくまでその経営者像とマーケティング手法に
ついて見解を述べていくことにします。
スティーブ・ジョブズは、アップル製品をこよなく愛するアップル信者なるマニ
アを魅了し続けることで現在のブランド価値を築いてきました。その源泉は洗練
された近未来的な工業デザインと、未来を見据えた製品思想にあります。
昨今の技術革新により、デジタル・デバイスは多機能・万能型な製品が数多く生
み出されるようになりました。しかし、アップルにおいての「最良」とは、必ず
しも多機能・万能を意味しないという哲学が現在のアップル社の成功に大きく寄
与しています。「使いこなせない多機能よりも、使い倒せる厳選機能」を実現し
た「ユーザーインターフェイス」自体が彼らの売り物、提供価値なのです。まさ
に「ドリルを売るには穴を売れ」です。
このムダを徹底的に排し、究極といえるまでに削ぎ落とされたシンプルなイン
ターフェイスは、どの製品カテゴリでも共通しています。たとえば、MacBook
をはじめとしたPC端末にしても、堅牢なファイアウォールを特徴の一つとし
て、買ったその日から面倒な設定をしなくても、すぐに使える様式美を備えてい
るワケです。無駄なボタンやソフトは一切入っていません。
これは、スティーブ・ジョブズが製品デザインから基板の設計、OSやソフト
ウェアの使い勝手、マーケティング手法、テレビCMの編集、広告媒体の選定ま
で、アップル社のありとあらゆる業務に目を光らせていたことの証左です。新型
機の開発の際にマザーボードの配列の仕方が美しくないとして、市場投入を否と
したという逸話は非常に有名な話です。
マーケティングとは顧客の声をいかに聞くことだということは以前にも触れてき
ました。コトラーのマーケティングの大原則は顧客の「ニーズ」に焦点を当てる
ことなのですが、この「ニーズ」の対立項として「シーズ」という考え方が存在
します。シーズというのは、製品開発者の「作りたい」という欲求に焦点を当
て、プロダクトアウトすることを指します。
一般的にこのシーズ志向はマーケティング的に否とされてきた考え方なのです
が、僕はこの「シーズ」という考え方がマーケティング上、非常に有効であると
考えています。なぜなら、経営者や従業員、製品開発者といった自社の人間こそ
が、「自社製品の第一の顧客」であるべきだからです。自社の製品を日常的に
使っているからこそ出てくる発想こそが、真の「ニーズ」に立脚した商品開発手
法であると言えます。
しかしながら、この「シーズ」志向にも罠が存在します。それは自社製品を日常
的に扱っているからこそ出てくる近視眼的な思い込みによって、第一の顧客であ
るはずの自社にバイアスがかかってしまうということ。この製品はこうあるべき
だという開発者の視点が、真の「ニーズ」から踏み外してしまうことがあるので
す。そのためにも、社会のトレンドに敏感に反応できる感受性を持ち合わせてお
くことが重要で、この感受性が不在なために、どんな「ニーズ」にも合致しない
的はずれな製品が生み出されることが往々にしてあるのです。
その意味でスティーブ・ジョブズが類稀な感受性と、これからのデジタル・ライ
フはこうあるべきだという強い先見的なビジョンを備えていたことで、真の(正
の)シーズが発揮されていたということがいえると思います。ある意味では、
シーズ志向は属人的な能力に依存するということなのですが、有能なコンダク
ターが存在することでこれらのバランスとコンセンサスが非常に取れていたこと
が、現在のアップルの成功につながっていたのではないでしょうか。事実、アッ
プルは、一時期スティーブ・ジョブズを解雇したときに、この「負のシーズ」思
考に陥っています。
さて、2つ目の論点としてスティーブ・ジョブズの特筆すべき経営手腕がありま
す。これは、僕が「インプルーブ・マーケティング」と呼んで提唱している理論
なのですが、製品に「物語性」という情報を付加することで、消費者を自社が発
信する情報のビオトープに引き入れることができるというものです。
単純な例で言うと、「新鮮な牛乳」というよりは「●●高原の●●さんが20年
の歳月をかけて到達した人類未踏の新鮮な牛乳」という情報を付加した方が売れ
るということです。これは単純に製品開発秘話や製品コンセプトを消費者に伝え
ることでも可能になるのですが、自社が創り出す未来の壮大なビジョンをストー
リーとして届けることで、その物語消費の中に消費者を引き入れることができま
す。この例で言うと、かつて大ヒットした「ビックリマン」現象を例にとること
ができます。
商品の背後に壮大なスケールのストーリーが進行しており、そのストーリーの副
産物としてビックリマン・シールという商品が位置付けられています。消費者は
ビックリマン・シールを買うことで、ロッテが展開したビックリマン・ワールド
に参加することになるのです。コレが僕が提唱している「インプルーブ・マーケ
ティング」です。
この意味をアップル社に変換すると、スティーブ・ジョブズはプレゼンの際に必
ず「アップル・ライフ」という、彼が描く壮大な未来の中に引き込まれます。そ
して製品単体でも、記者発表の前まで徹底した情報操作で新製品の概要を秘匿
し、神秘性を醸しだしています。これはアップル社内においてもプロジェクト間
の機密がしっかりと保たれ、製品が発表されるまで自社内で何が行われているの
か知らないスタッフも大勢いるのです。iPhoneの開発でも、筐体デザインの秘
密を守るために、部署によっては、実際にリリースされたものとは異なるダミー
デザインのプロトタイプを渡されて作業が進められたと伝えられています。こう
することで、各地でリーク情報が出まわり、憶測が憶測を呼びスティーブ・ジョ
ブズの描く世界観の中へと引きずり込まれることになったワケです。
最後はCI(コーポレート・アイデンティティ)とPR戦略の妙が挙げられるで
しょう。最近では、さまざまな製品分野で「Made in China」「Made in
Taiwan」「Made in Malaysia」といったように生産国表示をアジア諸国とす
るものが目立って増えてきました。アップルも例外ではなく製品外装には
「Assembled in China」や「Assembled in Malaysia」の文字を見つけられま
す。しかし同社は、その前に必ず次の一文を掲げた点で他社とは一線を画してい
ます。
「Designed by Apple in California」
つまり、どこの国で製造されようとも、あるいは生産委託をしていても、この製
品はカリフォルニア州のアップルでデザインされたものである、という宣言なワ
ケです。米国製品というよりは全世界製品として明示していて、そのコア・コン
ピタンスがどこにあるのかをユーザーに対して示していることが、安心感や信頼
感を育んでいるということが言えるでしょう。
以上、ここまでマーケティング的な視点からスティーブ・ジョブズの功績を眺め
てきました。今回の新製品発表はiPhone5を期待していたファンの思惑とは裏腹
に下馬評どおり、iPhone4のマイナーチェンジとなる4Sのリリースとなり、個
人的にも少し肩透かしをくらった気分です。スティーブ・ジョブズ不在のアップ
ルが今後、どのような「アップル・ライフ」を描いていくのかは未知数ですが、
ジョブスのマインドをきちんと継承して製品開発に取り組んでほしいものです
ね。





















